傷病者の手当をしたあとは救助者側の心のケアが大切?
皆さんは「目の前で突然人が倒れてどうしたらよいかわからなくなった」という経験はありますか?救護活動は必要なことですが、人の生死に関わる場面だからこそ救助者もパニックにおちいったり、精神的な負荷がかかります。今回は、救護活動を終えた後の救助者に焦点をあて、心のケアの方法について解説します。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?原因・症状について
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder/心的外傷後ストレス障害)とは、通常の範囲を超えた極端なストレスやトラウマ体験により引き起こされる精神疾患です。
この障害は、過去の出来事が自分の意志とは無関係に蘇り、現在も被害が続いているかのように感じることが特徴です。PTSDは決して珍しい病気ではありません。
WHO世界保健調査によれば、日本におけるPTSDの生涯有病率は1.3%とされ、約100人に1人が抱えている「ありふれた精神疾患」といえます。
PTSDの症状
PTSDの症状は、トラウマ体験の後にさまざまな形で現れます。まず、フラッシュバックと呼ばれる現象があります。これは、その事件や事故を再び体験しているかのように生々しく思い出されることです。
また、同じ悪夢を繰り返し見ることもあります。これらの症状により、突然感情が不安定になったり、過去の恐怖や苦痛、怒り、哀しみ、無力感といったさまざまな感情が蘇ることがあります。
これにより、つねに神経が張り詰め、ささいなことで驚いたり、警戒心が強くなったり、急に涙が出るといった過敏な状態が続きます。
PTSDの原因
PTSDを引き起こす原因は人それぞれですが、一般的に多いとされるのは戦争体験や自然災害、人的災害、性的暴行、身体的な暴力、交通事故、学校生活でのいじめ、幼少期の虐待などです。
これらの出来事は、身の危険を感じるほどの強いストレスをともない、自分ではどうしようもできない圧倒的な強い力に直面した時に発症しやすいとされています。
しかし、トラウマ体験をした全ての人がPTSDを発症するわけではなく、ストレス反応は人それぞれです。PTSDを発症するかどうかは、子どもも大人も関係ありません。個々の生まれ持った要因や育った環境が相互に影響しているとされています。
PTSDのメカニズム
PTSDが発症するメカニズムとして、強い不安や恐怖を感じた際にその体験を落ち着いて整理することができず、記憶の断片化が生じることが考えられています。
よく覚えている部分と覚えていない部分が混在し、体験したことと感じたことの関係性や時間的な順序が整理されず、突然記憶が意識の中に侵入することでフラッシュバックや悪夢が生じるのです。
その一部を思い出すと断片的なイメージと結びつき、何もかもが怖くなり、現在でも被害が続いているように感じられるため、不安や緊張状態が続きます。
救助活動後にPTSDを発症した事例がある
じつは救護活動後にPTSDを発症する事例があります。これはとくに、一般市民が緊急事態に遭遇し、AED(自動体外式除細動器)を用いて命を救うような状況で顕著です。救助者がPTSDを発症する人には、下記のような特徴があります。
・生活のストレスが大きい人
・スポーツマンタイプ
・普段からカフェインをよく摂る人
・過去にトラウマ体験や逆境経験を持つ人
ここでいう生活のストレスが大きい人とは、救助後に日常生活に戻る際のプレッシャーや責任感が重くのしかかることが影響します。スポーツマンタイプの人は、救護活動時にアドレナリンが多く分泌される傾向があります。
アドレナリンは恐怖反応を引き起こしやすくし、それがPTSDの発症につながるのです。加えて、カフェインの摂取が不安を増強することもあります。救護活動後に元気を出すためにカフェインを多く摂取する人は、注意が必要です。
また、過去にトラウマ体験や児童期の虐待などの逆境体験がある人は、救助活動後にPTSDを発症するリスクがさらに高くなります。これらの人々は、過去のトラウマが再度引き起こされることで、心理的負担が増大します。
PTSDにならないためにも心のケアが大切!
救護活動後にPTSDを発症しやすくなる原因のひとつとして、救助後の社会的サポートの不足が挙げられます。救助者がその後適切なケアやサポートを受けられないと、ストレスが積み重なりやすくなるためです。
また、救助者自身が自分の症状と救助体験を結びつけられないこともあります。トラウマ体験をしても、その後の不安定な症状の原因が分からないままでは、本人も周りも非常に辛い思いをします。
しかし、その症状が過去の体験に起因していると気づくことができれば、それが回復への第一歩となります。残念ながら、日本において救護活動後の心のケアやPTSDへの理解はあまり進んでいませんが、精神保健福祉センターや、精神科や心療内科などには、PTSDに知識のある医師や公認心理師のいる施設も存在します。
「 PTSDかもしれない」と思ったら早めに専門家に相談するとよいでしょう。
まとめ
救助活動は一見すると英雄的な行為であり、社会から感謝されるべき行動ですが、救助者がその経験から深い心理的影響を受けることが少なくありません。救助活動において直面する死の危険や緊迫した状況は、非常に強いストレスを引き起こし、それが後にPTSDとなるリスクを高めるのです。PTSDは誰にでも起こりうる病気であり、適切なサポートと治療が重要です。過去に虐待などのトラウマを抱えている方、スポーツマンタイプの方、普段からカフェインを摂取する機会が多い方はとくに注意すべきでしょう。救護活動後にPTSDを発症するケースもあり、救護活動後は自身の心のケアに徹するべきといえます。